比較・選び方
壁紙・壁装グラフィックの内製化は本当に得か?においで機械が置けない問題と、外注のままでいい条件【2026年版】
公開:2026年7月23日
病院の待合室に貼るオリジナル壁紙。学校の廊下を彩る壁面装飾。店舗のリニューアルに合わせた大判グラフィック。こうした壁装の仕事を、いま外注に出している会社は多いと思います。
外注に出すたびにマージンが乗り、納期は先方の都合に左右される。「これ、自社で刷れないのだろうか」と一度は考えたことがあるはずです。
この記事では、壁紙・壁装グラフィックの内製化を、看板の内製化とは別のものとして整理します。コスト構造が違い、使うメディアが違い、そして**看板業ではほとんど問題にならない「におい」が、最大の障壁になる**からです。
先に申し上げておくと、この記事は内製化をおすすめする内容ではありません。むしろ、外注のままでいたほうがいい条件を先に書きます。
壁装グラフィックの内製化は得か?
案件が安定し、短納期が武器になる商売なら検討余地があります。不定期・施工主業・稼働が読めないなら外注継続が合理的です。方式はにおい制約から逆算してください。
先に結論:この3つに当てはまるなら、まだ買わないでください
壁装の内製化、まだ買わないほうがいい条件は?
案件が不定期、施工が主業で印刷は一部、稼働を計画的に組めない——この3つに当てはまるなら、固定費負けしやすいです。
大判プリンターは、本体価格だけでも数百万円になります。そこにリース料、年間保守契約、ヘッド交換に備えた積立、電源工事が加わり、稼働していない月にも固定費は発生し続けます。
以下の3つに当てはまる場合、内製化しても外注より高くつく可能性が高いと考えてください。
1. 壁装の案件が不定期で、月ごとの波が大きい
壁装の仕事は、改装・オープン・移転といったイベントに紐づきます。年に数件しかない、あるいは特定の時期に集中する、という会社は珍しくありません。
固定費は毎月一定でかかります。案件のない月が続けば、その分だけ内製の不利は広がります。
2. 施工が主業務で、印刷はその一部でしかない
内装会社・リフォーム会社の多くは、施工が本業です。壁装グラフィックは工事全体の一部であり、印刷そのものが収益の中心ではありません。
この場合、印刷を内製化しても本業の工数を圧迫するだけで終わることがあります。機械のメンテナンス、プロファイルの調整、色合わせの試行錯誤には、それなりの時間がかかります。
3. 短納期案件が中心で、機械の稼働を計画的に組めない
意外に思われるかもしれませんが、短納期が多いことは内製化の理由にも、内製化しない理由にもなります。
自社の機械が別案件で埋まっているとき、短納期の依頼は受けられません。外注なら複数の出力先を使い分けられますが、自社機は1台しかない。稼働の読めない仕事ほど、外注のほうが柔軟に回せるという側面があります。
これらに当てはまるなら、いま機械を検討するのは早いです。まずは外注を続けながら、自社の実際の物量を測ることをおすすめします。測り方は記事の最後で触れます。
以降は、それでも内製化を検討する価値がある場合に、何を判断材料にすべきかを説明します。
壁装の内製化は、看板の内製化と3点違う
壁装の内製化は、看板の内製化と同じ考え方でよい?
いいえ。ラミネートの有無、メディアの種類、におい制約が違うため、看板向けの損益分岐をそのまま使うと外れます。
インターネット上には大判プリンターの内製化に関する情報が多くありますが、そのほとんどは看板・サイン業を前提に書かれています。壁装はコスト構造も使う材料も違うため、看板の判断基準をそのまま持ち込むと計算が合いません。
違いは大きく3つです。
①ラミネートを貼らない
屋外看板に使う塩ビシートは、耐候性と傷への強さを確保するためにラミネートフィルムを貼るのが一般的です。このラミネート代と、貼る手間が、看板印刷の変動費に大きく効いてきます。
一方、屋内の壁紙にラミネートを貼ることは基本的にありません。壁装メディアは、そもそもラミネートなしで使う前提で作られています。
つまり1平米あたりの変動費の構造が、看板と壁装ではまったく違います。看板業向けに書かれた損益分岐点の計算をそのまま使うと、実態から外れた数字が出ます。
②塩ビフィルム以外が主役になる
看板業で扱うメディアは塩ビフィルムが中心です。しかし壁装では、次のような素材が主役になります。
- 不燃認定メディア:建築基準法の内装制限がかかる建物では必須
- スタッコ調メディア:表面に凹凸のある壁紙。塗り壁のような質感が出る
- 織物系・不織布系メディア:貼り替えのしやすさや、独特の風合いを求める場合
これらは塩ビフィルムと厚みも硬さも違い、プリンター側の対応が問われます。メディアの厚み制限、ロールの重量、送り機構の精度。カタログ上は「対応」と書かれていても、実際に安定して通るかは別問題です。
機種を検討する際は、扱いたいメディアが具体的に決まっているなら、その素材で実際に出力できるかを必ず確認してください。
③においで現場に入れない
そして、壁装で最も見落とされやすいのがこれです。次の章で詳しく説明します。
なぜ溶剤機だと病院・学校の仕事が取れないのか
溶剤機で病院・学校の壁装は受けられる?
リスクが高いです。施工翌日から人が使う空間では、溶剤のにおいが障壁になり、方式選びが受注範囲を決めます。
大判プリンターを導入したのに、一番やりたかった仕事が受けられない。壁装の内製化では、これが実際に起こります。
原因はインクの方式です。
溶剤インクは、施工後もにおいが残る
エコソルベントインクは、有機溶剤に顔料を溶かしたインクです。溶剤がメディアに浸透して定着するため、密着性と耐候性に優れており、屋外看板では長く主流の座にあります。
ただし、印刷後もしばらくは溶剤特有のにおいが残ります。十分な乾燥時間を取れば軽減されますが、完全に消えるまでには時間がかかります。屋外看板であれば問題になりませんが、屋内、それも人が長時間過ごす空間となると話が変わります。
病院・介護施設・学校は「翌日から人が使う」空間
壁装グラフィックの現場では、こういうスケジュールが当たり前に組まれます。
- 病院:診療の終わった夜間に施工し、翌朝から通常診療
- 学校:休校日や長期休暇中に施工し、休み明けから生徒が使用
- 介護施設:入居者の生活空間なので、そもそも長時間の閉鎖ができない
施工から使用開始までの時間が、極端に短いのです。乾燥のために数日空けてもらう、という交渉は現実的ではありません。
さらに、これらの施設を使うのは患者・高齢者・子どもです。においに敏感な方や、化学物質に反応しやすい方が含まれる前提で考える必要があります。
結果として起きること
溶剤機しか持っていない会社は、こうした案件を受けられません。正確に言えば、受けても現場で問題になるリスクを抱えることになります。
「機械はあるのに、この現場では使えない」
これは設備投資として、かなり痛い状況です。数百万円をかけて導入したのに、伸ばしたかった分野の仕事が取れない。壁装の内製化を検討するなら、どの現場の仕事を取りたいのかを先に決め、そこから逆算して方式を選ぶ必要があります。
GREENGUARD Gold という判断材料
屋内向けの適性を示す指標として、GREENGUARD Gold認証があります。
これは製品から放散される揮発性有機化合物(VOC)の量について、世界的にも厳しい水準の基準を設けた認証です。認証を取得したインクは、学校・病院・保健施設といった、屋内環境の基準が厳しい施設での使用に対応するとされています。
水性のレジンインクやラテックスインクの一部が、この認証を取得しています。
発注者側、つまり病院や学校の担当者が「においの出ない施工」を条件に挙げるケースは、実際に増えています。方式の選択が、そのまま受注できる仕事の範囲を決めるという構図です。
短納期こそ内製が効く(コストではなく納期の話)
壁装の内製化で効くのはコスト削減?
実務では納期のほうが効くことが多いです。短納期を武器にできる商売かどうかが、判断の重要な軸になります。
内製化の話になると、どうしてもコストの比較になりがちです。1平米あたりいくら安くなるのか、何年で回収できるのか。
しかし壁装の内製化で実際に効いてくるのは、コストよりも納期であることが多いです。
壁装の案件は、そもそも短納期になりやすい
壁装グラフィックは、改装・オープン・催事といったスケジュールに紐づいて発生します。そしてこの手のスケジュールは、しばしば後ろ倒しになります。
- 内装工事が延びて、グラフィックの施工日が圧縮される
- オープン日は動かせないので、その分だけ制作期間が削られる
- 現場合わせで寸法が変わり、データの修正が入る
外注に出していると、この変動を自社でコントロールできません。印刷会社の生産スケジュールに空きがなければ、待つしかない。特急料金を払っても、物理的に間に合わないこともあります。
内製なら「明日貼る」が組める
自社に機械があれば、夕方にデータを修正して夜のうちに出力し、翌朝から施工する、といった動き方ができます。
この差は、コスト削減より大きな価値を生むことがあります。短納期に対応できる会社は、それだけで元請けから重宝されるからです。単価の交渉力にもつながります。
内製化をコストだけで判断すると、この価値を見落とします。逆に言えば、納期を武器にできる商売の形かどうかが、内製化を判断する重要な軸になります。
ただし、自社機が埋まる日は必ず来る
一方で、機械は1台しかありません。繁忙期に別案件で埋まっていれば、短納期の依頼は受けられません。
内製化しても、出力を頼める先を1つは確保しておくのが安全です。自社で回せる分は自社で、あふれた分は外に出す。この二段構えができて初めて、短納期を武器にできます。
なお、当サイトを運営する株式会社トレードでは、壁装メディアの出力にも対応しています。繁忙期の受け皿として使っていただくことも可能です。
屋内で使える方式はどれか
壁装向けに有力な印刷方式は?
水性レジン/ラテックスが有力です。においが少なく、壁紙・布・非塩ビへの対応が前提で設計されています。
壁装、特に病院・学校・介護施設といった屋内環境を狙うなら、方式の選択が最初の分岐点になります。主要な4方式を整理します。
| 方式 | におい | 屋内適性 | 主なメディア | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 水性レジン/ラテックス | ほとんどなし | ◎ | 壁紙・布・キャンバス・非塩ビ | GREENGUARD Gold取得の製品あり。速乾で印刷後の乾燥待ちが不要 |
| UV硬化 | 少ない | ○ | 塩ビ・ターポリン・一部の板材 | 紫外線で瞬時に硬化。メディアの選択肢が広い |
| エコソルベント | あり | △ | 塩ビフィルム中心 | 屋外看板では主流。屋内は乾燥時間の確保が前提 |
| 水性顔料 | なし | ◎ | 紙・布 | 耐水性に制約。用途が限定される |
壁装で有力になるのは、水性レジン/ラテックス方式です。においがほとんどなく、壁紙・布・非塩ビ系のメディアへの対応が前提で設計されているためです。
具体的な機種としては、次のようなものがあります。
壁装で使うメディアは何か
壁装で使うメディアのポイントは?
不燃・スタッコ調・織物/不織布など塩ビ以外が主役です。メディアを先に決め、機種の対応を実機で確認してください。
機械を選ぶ前に、どのメディアを使うのかを先に決めてください。メディアが決まらないと、必要な機能も決まりません。
壁装で使われる主なメディアは次のとおりです。
不燃認定メディア
建築基準法により、建物の用途や規模によっては内装材に防火性能が求められます。病院・学校・店舗など、不特定多数が利用する施設ではまず必要になると考えてください。
認定番号のある製品を使うことが必須です。施工後に確認を求められることもあるため、認定書類の管理まで含めて運用を考えておく必要があります。
スタッコ調メディア
表面に凹凸のあるメディアで、塗り壁のような質感が出ます。フラットな塩ビシートとは印象が大きく変わるため、意匠性を求められる現場で選ばれます。
凹凸があるぶん、プリンター側のヘッドとメディアのすき間(ギャップ)調整が重要になります。
織物系・不織布系メディア
貼り替えのしやすさや、風合いを重視する場合に使われます。壁紙として一般的な材質でもあり、内装工事の流れの中で扱いやすいという利点があります。
メディアはどこで買うか
壁装用のインクジェットメディアは、リンテックサインシステム、シーズなど複数のメーカーから出ています。メーカーごとに対応プリンターや推奨設定が異なるため、機種選定と並行して確認するのが確実です。
当サイトを運営する株式会社トレードが運営する「サインシティ」でも、壁装用メディアを取り扱っています。
迷ったら、まず1案件だけ外注して原価を測る
内製化の判断に必要なのは?
自社の実績数字です。月あたり出力量・案件あたり実質原価・納期起因の機会損失を、まず1〜2案件の外注で測ってください。
ここまで読んで、それでも判断がつかないという方は多いと思います。当然です。自社の実際の数字がなければ、内製化の可否は誰にも判断できないからです。
カタログスペックを比べても、他社の導入事例を読んでも、答えは出ません。必要なのは自社の数字です。
測るべき3つのこと
内製化を検討するなら、まず次の3つを実測してください。
- 月あたりの出力量:過去1年の壁装案件を洗い出し、実際に何平米出力したかを集計する。「これから増やしたい」という願望ではなく、すでに存在している実績で計算する
- 案件あたりの実質原価:外注費だけでなく、データ作成の工数、色校正のやり取り、納品の待ち時間まで含めて把握する
- 納期に起因する機会損失:「短納期で断った案件」「外注の納期に合わせて受注を諦めた案件」が年に何件あるか
まず1案件、外に出して測る
これらを正確に把握するために、1〜2案件を実際に外注に出してみることをおすすめします。見積もりを取るだけでなく、実際に発注して、納品まで一通り経験する。
そこで初めて、外注の実コストと手間が見えてきます。
なお、印刷だけでなく施工まで含めて依頼することもできます。トレードは看板施工で全国に対応しており、グループには店舗内装を手がける会社もあります。まず1案件を任せてみて、その経験を踏まえて内製化を判断するという進め方も可能です。
数字が出たら、シミュレーターで確認する
実測した数字が出たら、当サイトの内製化シミュレーターに入力してみてください。機種ごとの固定費と、想定する出力量から、内製と外注のどちらが有利かを試算できます。
まとめ
壁装グラフィックの内製化は、看板の内製化とは別のものとして考える必要があります。
- ラミネートを使わないため、コスト構造が違う
- 不燃・スタッコ調など、塩ビ以外のメディアが主役になる
- においで現場に入れない問題があり、方式の選択が受注範囲を決める
そして、内製化の価値はコスト削減よりも納期短縮に出ることが多い。短納期に対応できることが商売の武器になるかどうかが、判断の軸になります。
案件が不定期で、施工が主業務で、稼働が読めないのであれば、外注を続けるほうが合理的です。まずは自社の実際の物量を測ってから、判断してください。
よくある質問
壁紙を自社で印刷するには何が必要ですか?
大判インクジェットプリンター、壁装用のメディア、RIPソフトウェア、そして設置スペースと電源が必要です。プリンターは幅1,600mm前後のロール機が一般的で、本体価格は数百万円になります。見落とされやすいのが電源です。機種によっては単相200Vの電源工事が必要になり、別途費用が発生します。導入前に必ず確認してください。
病院や学校で使う壁紙を印刷しても、においは残りませんか?
インクの方式によります。水性のレジンインクやラテックスインクであれば、においはほとんど残りません。一部の製品はGREENGUARD Gold認証を取得しており、学校・病院・保健施設といった屋内環境での使用に対応するとされています。一方、エコソルベントインクは有機溶剤を含むため、印刷後もしばらくにおいが残ります。施工の翌日から人が使う空間では、方式の選択に注意が必要です。
壁紙の印刷にラミネートは必要ですか?
屋内の壁紙であれば、基本的に不要です。壁装用メディアはラミネートなしで使う前提で作られています。ただし、頻繁に人が触れる場所や、清掃で水拭きする箇所では、保護のためにラミネートを検討することもあります。現場の使われ方によって判断してください。
不燃の壁紙は自社で印刷できますか?
印刷そのものは可能です。不燃認定を取得したインクジェットメディアが各メーカーから販売されています。注意点は、認定は特定の材料の組み合わせに対して与えられていることです。認定番号のある製品を、指定された条件で使う必要があります。使用する製品の認定内容を確認してください。
スタッコ調の壁紙にも印刷できますか?
対応しているメディアであれば可能です。表面に凹凸があるため、ヘッドとメディアのすき間の調整が重要になります。機種によって対応できるメディアの厚みに制限があるため、使いたい製品が決まっている場合は、その製品で出力できるかを事前に確認することをおすすめします。
印刷だけ頼むことはできますか?施工もお願いできますか?
どちらも可能です。当サイトを運営する株式会社トレードでは、壁装メディアの出力に対応しており、施工まで含めたご依頼も承っています。看板施工で全国に対応しており、グループには店舗内装を手がける会社もあります。内製化を検討中の方が、まず1案件を外注して原価を測る、という使い方をしていただくこともできます。
内製化と外注、どちらが安いですか?
自社の出力量によって変わるため、一概には言えません。判断の目安としては、月ごとの出力量が安定して確保できるかどうかが分岐点になります。案件が不定期で波が大きい場合は、固定費の負担が重くなるため外注が有利です。逆に、毎月一定量の出力が見込めるなら、内製化の検討に値します。具体的な分岐点は機種の価格・保守費用・使用するメディアによって変わります。当サイトのシミュレーター(/simulator)で、自社の数字を入力して確認してください。
このサイトの運営について
看板資材のネット通販で支持される「サインシティ」を運営する株式会社トレード。2001年のネット草創期からEC運営を続けてきた先駆企業であり、全国50拠点以上をもつ上場企業グリーンクロスグループの一員です。プリンター本体だけでなく、印刷メディアやラミネートなどの資材まで自社で扱う“材料商社”だからこそ、トータルでお求めやすい価格をご提案できます。相見積もり、歓迎です。
- ・2001年(ネット草創期)から自社ECサイト「サインシティ」を運営
- ・株式会社トレードは1990年設立
- ・全国50拠点以上をもつ上場企業グリーンクロスグループ(証券コード272A)の一員





